憂一

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『何もいらない』

私は部屋に物をあまり置かない。いわゆるミニマリストだ。
生まれつきそうだったわけではなく、大学を出て働くようになってから少しずつ部屋からものがなくなっていった─ひとりでにものがきえたわけではなくて、もちろん私が自分で捨てたのだけど─。
この部屋に越して来た頃は、服も本も雑貨もいっぱい持っていて、部屋に物と色が溢れていた。
だけど、働くのは辛くて、いろいろと考えることが多い。
毎日ひっきりなしに頭を使い続けて、日に日に生活の余白を楽しめなくなってしまった。
そういう私の心持ちが、部屋を空っぽにしていった。
そんな私だけど、昨日、手のひらに収まるくらいのクマのぬいぐるみを買ってきた。仕事の帰り道で見かけた骨董屋で目が合って、その5分後には私は店主の老人に500円を手渡していた。
あの衝動がどこから来たのかは分からないけれど、今なら前よりも、世界を楽しめる気がする。

4/21/2024, 12:40:51 AM