燈火

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【凍える朝】


ピピピピピピピピ。脳内を侵食する電子音。
「うるさ……」僕は緩慢な動きで枕元を探る。
スマホを見つけて、寝ぼけ眼で画面を眺めた。
出勤時刻のアラームを切り忘れていたらしい。

けたたましい音をリセットしてスマホを置いた。
もしや彼女の安眠を妨げてはいないだろうか。
毛布を巻き取らないように、慎重に寝返りを打つ。
視線の先に、思い浮かべた相手の姿はなかった。

あれ、おかしいな。一瞬、思考がフリーズする。
昨日は彼女が来て、いつものように泊まっていった。
それなのに隣に温もりはなく、物音もしない。
セミダブルに一人という受け入れがたい現実。

勢いよく起き上がると、冬の寒さが身にしみる。
なんとか彼女の痕跡を探そうと部屋を歩き回った。
毛布で得た熱が失われていくが気にする余裕はない。
痕跡が見つからず愕然とした時、玄関が開けられた。

「あ、起きたんだ」そう言って、平然と現れた彼女。
驚きと安堵、疑問が一気に湧いて僕はパニック状態。
「おかえり」なんとか、かろうじて言葉を紡いだ。
直後、体温の低下を自覚した体が震え出す。

慌てた彼女に背を押されて、僕はベッドに逆戻り。
彼女の手の冷たさが背中越しに伝わってくる。
僕は毛布から腕を伸ばし、彼女の手首を掴んだ。
「一緒に寝て温めてよ」きっと寒さも分け合える。

彼女は、わがままを許す母親のように微笑んだ。
手に提げていた袋を机に置いて、彼女は布団に潜る。
二人とも体が冷えているせいで温かくはない。
だけど、僕の心は数分前より熱を取り戻していた。

11/1/2025, 6:53:55 PM