幼い頃、父が職場の後輩から一台のスポーツ自転車を貰ってきた。
幼かった私は父に尋ねた「おとーさん、これに乗るの?」父は「乗らないよ、お部屋に飾るの」と苦笑いしながら答えた。
私はよく父親の部屋で遊んでいた。そんな私をこの自転車はずっと眺めてきたんだなぁ⋯と今になって思う。
高校生になったある日、友人がロードバイクを買った。その魅力を語ってもらううちに自分も乗りたくなった。だが貧乏な私にロードバイクを買う金は無い
「あの自転車治すか⋯」私はなけなしのバイト代を手に自転車屋のオヤジに相談した。
それから2週間後、埃を被ったかつてのスポーツ自転車は新品のようになって帰ってきた。
それからというもの、その自転車とは色々な場所を走った。東京の摩天楼、雄大な川沿いのサイクリングロード、どこまでも広がる田園の中⋯ 車の免許も取れない高校時代の私は体力と時間の許す限り、どこまでも共に旅をした。
やがて月日は流れ、私は車の免許をとった。同時に自転車に乗る機会はかなり少なくなった。
一人暮らしを始める時、母が「自転車乗らないなら処分するよ」と言った。
「大丈夫、持っていくから」私は無意識にそう答えた。
例えあまり乗らなくても、数え切れない思い出を乗せた自転車は私の寝室に、今日も、ずっと隣で。
3/13/2024, 11:25:38 AM