緋衣草

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巡り会えたら (10.4)



違う
…かもしれない。
 もう一口スプーンを運んでため息と共に飲み込む。やはり、ずっと探している味ではない気がする。とはいえきっと味覚も変わっているはずで、実は正解かもしれなかった。
「でも、もっと甘くて固かった気がするのよ…」
 プリンアラモード。幼い頃に一度味わったそれは、ふふふと笑っているように細かく揺れていて。缶詰フルーツと生クリームが負けるくらいに甘くて。ちょっとざらっと私の舌を撫でていったのだ。
「作り直しますか」
 突然降ってきたセリフは、疑問というより宣言だった。私と同い年くらいの青年はそのプライドを刺激されたのか、きゅっと形のいい眉を寄せている。
「わ、えっと、お願いします」

 結局3回も作らせちゃった…
申し訳なさでいっぱいになりながら、つんとプリンをつつく。一口、すくおうとして険しい視線と目が合う。
「あの、どうしてここまでしてくれるんですか?」
「貴女の笑顔が見たくなったから」
 な、と固まる。
ざらりと舌に乗ったプリンは、これまでで1番甘かった。

10/4/2023, 9:54:17 AM