結婚記念日ってよく花買って帰るとか聞くけど、それされて相手って喜ぶもんなんかね? すぐ枯れるし、枯れるまでは水替えたりしないとだし、大変じゃね?
······花屋の跡継ぎの友人にそんな話題を振ってしまったことが間違いだった。来月、結婚して初めての結婚記念日を迎えるに当たり、一体何をプレゼントとして選べばいいのか候補の一つも浮かばないダメな俺は、ついつい流れるようにそのことについて相談をしてしまった。その瞬間、向かいの席に座っていた友人が獲物を見つけた肉食獣のように目を光らせたのを見て「やっちまった」と後悔したが、時すでに遅し。
友人からアレやコレや色々な話を聞かされ、色々なプランを提案され、友人主体でどんどん進んでいく計画。あまりにも手際が良すぎて、気付いた時には見積もりまで含めて全て話は片付いていた。商魂の逞しさとこの頭の回転力には素直に敬意を表するべきだろう。俺一人だったらきっと今この瞬間だって未だに何も決まらないまま悩んでいたに違いないのだから。
当日の仕事終わりに友人の店へ寄り商品を取りに行く約束をして、俺達は長時間話し込み居座り続けてしまったカフェをそそくさと後にした。
······そうして俺は今、自分と生涯を共にすると誓ってくれた妻の前に、無言で花束を差し出しているところである。あまりにも恥ずかしくて碌に妻の顔さえ見れやしない。
妻は妻で、驚いたように目を丸くしたまま言葉を失っている。きっと、予想外のものが突然飛び出してきたから思考が停止してしまっているのだと信じたいが、万が一ドン引きでもされていたらどうしようかと気が気じゃない。
何かとんでもない誤解を受ける前に······と、俺は一つ咳払いをしてから漸く口を開く。
「······色々、考えたんだよ。結婚記念日に花を贈るって、なんていうか、ド定番じゃん? それに、贈ったところで花なんてすぐに枯れる。枯れるまでは世話という手間もくっついてくる。それで本当に、贈られた相手に満足してもらえるのか? って。ずっと腑に落ちなかった。だから······」
俺は改めて、花束を妻の前へと近付ける。生花ではなく······ドライフラワーで作った花束を。
「だから······枯れない花だったら、いいんじゃないかって。これなら永遠に枯れない。ちょっと格好つけて言うなら······“永遠を集めた花束”······って、いう······か············」
言葉の途中でだんだんと照れの感情が増幅してきて、最後の方はとんでもなく歯切れの悪い物言いになってしまった。格好つけてとか言っておきながら、結局格好ついてないのが本当に俺って感じだ。
居たたまれなくなってきて妻から視線を逸らしたその直後、妻がふわりと優しく花束を受け取ってくれた。反射的に妻の方を向けば、とてもとても愛おしそうに、まるで赤ちゃんでも抱いているかのような形で花束を抱え、頬を紅潮させながら穏やかに笑んでいた。
「······素敵すぎて、すぐに言葉が出てこなかった。······本当に、素敵な贈り物。何だか、もう一度プロポーズされたような気持ちになっちゃった」
「······んな、大袈裟な」
「そんなことない。······きっと、たくさん悩んで決めてくれたんでしょう? その気持ちだけでも十分嬉しいのに、こんな、目に見える形の“永遠”を贈ってもらえるなんて······私、本当に幸せ者だね」
妻は少し涙ぐみながら俺の方へ向き、「本当に、ありがとう」と幸せそうな顔で伝えてくれたので。
急激に愛しさが湧き上がって頂点に達した俺は、花束に気を遣いつつしっかりと妻の華奢な体を抱き締めた。
俺達の間に挟まれた、ドライフラワーの花束。俺達夫婦の絆を繋ぐもの。永遠に枯れない花達が、どうか俺達の永遠の愛に力を貸してくれますように。そう、ささやかに祈った。
2/4/2025, 3:33:36 PM