真鶴。🐰

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高校生の頃、クラスに大人しい女の子がいました。
その子と僕は三年間同じクラスだったけど、一度も喋った事がありません。
なのでずっと忘れていました。今の今まで忘れていました。

その子とは数年後。僕が社会人になって数年が経った頃。同じ職場で再会したのです。
僕は先輩に仕事を教えてもらっているその子を遠目で見ながら、そういえばと思い出します。
確かにあの頃、大人しいと感じていましたが、決して友達がいないわけでもなく、会話も普通にするんですよね。
その子と僕が喋った事がなかっただけで、今なら普通に会話が出来るのかもしれないと。
思ったので僕は席を立ち、その子に初めて近付きました。

「あ、あの」

僕の声は上擦っていたのでしょうか。視線がぶつかると、時が数秒止まります。

「……なんでしょうか?」

声は、こんな感じだっただろうか。僕は急に声を掛けてしまった事を後悔しました。

「僕の事、覚えていますか?」

我ながらキモい事を言いました。覚えているわけがないでしょう。三年間同じクラスだっただけの僕の事なんて。
ええ、覚えていませんでした。現実は漫画のようにはいきません。
だけど、それでも。

「……いえ、なんでもありません」

いいじゃないですか。その子と僕は初対面。とりとめもない話から始めていきましょうよ。


#48 とりとめもない話

12/17/2024, 11:22:14 PM