螢火

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苦しい。苦しい。



僕は物心が着いた頃から白い部屋にいる。ママは毎日僕に「大丈夫だよ」と笑顔を向ける。パパは「元気になったら、恐竜見に行こうか」って約束してくれた。すっっごい楽しみ。でも、僕には本当は元気になったら1番にやりたいことがある。それは野原を裸足で走ること。長い間ベッドの上にいなきゃだからってママが映画やアニメを観れるようにタブレットを買ってくれた。それで見た海外の映画で女の子が田舎の方の街の、広い野原の上を裸足で走るシーン。羨ましくて、僕も早く元気になってその街に行って真似するって決めた。全速力で走るんだ。草を踏むとどんな感じで、どんな音がするのかも分からないけど楽しそうだってことはわかる。

僕は物心が着いた頃から白い部屋にいる。1度だけ友達の男の子と追いかけっこをした。そしたら目の前がぼんやりして息が苦しくなって、ドキドキが止まらなくなった。気付いたら自分のベッドで寝てて、ママとパパは隣で泣いてた。だからそれ以来走ったことはない。しかもその後から友達には会えなくなっちゃった。どこを探してもいないし、先生やママに聞いても「今もきっと見守ってくれてるよ」ってしか言ってくれない。なんであの子が僕を見守るの?隠れて見守ってるくらいなら一緒に遊んでくれなきゃつまらないのに。

僕は物心が着いた頃からこの白い部屋にいる。この部屋からの景色は最高で、特に夜!街がキラキラしているのが見えて、ずっと眺めていられる。僕が裸足で走りたいって思うような野原はここにはないけど、でもあのキラキラも結構すき。赤い塔も立ってる。毎日17時に鳴る音楽もなんで鳴るかは分からないけど、きらいじゃない。だからこのキラキラな街も、それが見渡せるこの部屋も悪くないと思ってる。

僕は物心が着いた頃からこの白い部屋にいる。今日は先生がママとパパに大事な話があるって言ってた。どんな話かは分からないけど、ママとパパは先生のところから帰ってきた時笑顔だった。でも僕は知ってる。泣いたら目の周りが赤くなる。ママとパパは泣いたんだ。でも知らないふり。

僕は物心が着いた頃からこの白い部屋にいる。さいきんあまりお腹が空かない。でもママ達が心配するからいっぱい食べて早く元気にならなきゃ。


僕は物心が着いた頃からこの白い部屋にいる。さいきんは体が痛くて動けない。でも笑顔でいなきゃ。



僕は物心が着いた頃からこの白い部屋にいる。寒い。




髪に風を感じる。

大きく腕を振って走ろうか。










----------------------花瓶に花。

『遠くの街へ』



2/28/2024, 11:27:51 AM