仄かに匂い立つ、柔らかくてどこかさっぱりとした柑橘の香。湯に浮かぶ黄色く歪な形をしたそれを一つ、手に取ってみる。「これ、こちらに集中せんか」すぐ後ろから抱きついてくる男がいなければもっとこの湯を楽しめるというのに。ぺしりともぎ取られた柚がポイと投げられ、ぷかぷか浮かんで離れていく。「……柚にまで嫉妬するな」「いやだね」面倒くさくて厄介なはずなのに、心は不思議と凪いでいる。嗚呼柚子湯のせいだと思いたい。
12/23/2024, 1:19:52 AM