月凪あゆむ

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子供のままで

 小さいころに、おばあちゃんはわたしに「おまじない」をかけた。何度も、かけてきた。
「ずっと子供のまま、大人にならなくて良いからね」

 そうすれば、私が「大人の思考」で苦しむこともない、って。
 でも、それは所詮はまじない事。私は当たり前に、大人になる。
 そして、知っちゃった。
 
 わたしは「身代わり」なんだって。

 お父さんとお母さんと一緒に、あの写真に写ってる子は、だあれ?
 そして、私は本当はお父さんとお母さんの子供じゃない。
 
 それだけの情報で、大人になっちゃった私は充分すぎるくらいに、理解できた。できちゃったんだ。

 ──愛されていないのか?
 そんなことはない。
 でも、ふたりが観ているのは、わたしじゃない。
 きっと、同じように大人になるはずだった、あの写真の子。あの子との時間。
 わたしを見ながら、「もしも」のあの子を観ている。

 ほんとだね、おばあちゃん。
 私、子供のままでいたかった。
 おまじないじゃなくて、もっと強力な。魔法や、いっそ呪いでもよかった。



 ──そして。その年の夏のこと。
 私は今、わたしで居られるようになった。
 それというのもおばあちゃんが、お父さんとお母さんに「呪い」という名の「お説教」をしてくれたの。

 あのとき、おばあちゃんに泣きついた時は、自分が惨めで仕方なかった。
 でも、そのおかげで今わたしはおばあちゃんと、それにお父さん、お母さんとも家族で居ることができるようになった。

 
 ずっと、おばあちゃんは「私」じゃなくて「わたし」として見守ってくれていた。 
 それが、とてつもなく嬉しいの。

 おばあちゃんがいるから、「わたし」になれた。いや、戻れたのかな?
 
 ありがとう、おばあちゃん。

5/12/2023, 1:54:51 PM