秋風
二階の窓から見える木が揺れている。
伯爵はお気に入りの椅子に座りその様子を眺める。どの時期の景色も好きだがこの季節は特にいい。すべすべした褐色の肘掛けに腕をあずけながら過ごすこの時間を、伯爵はとても大事にしていた。
寒くなり始めたので部屋の暖炉には火を入れている。パチパチと火の爆ぜる音が心地よい。ランプのだいだい色の灯りで本の続きを読む。世界から隔絶されたひとりきりの時間。
こんこん。
窓をたたく音がする。
二階の窓をたたくことが可能なのはあいつだけだ。こんなふうに風の強い寒い日にやってくる。風はごうごうと勢いを増し始めているが、窓をたたく音はやまない。
こんこんこん。
伯爵は椅子から立ち上がり窓に近寄った。窓にほど近い木の枝が風に揺られて当たる。この時期になると伯爵の部屋の窓をたたく枝のことを伯爵は気にいっている。
冷たさを秘めた秋風が揺らす枝のことが、伯爵はことのほか好きなのだった。
11/14/2023, 12:27:21 PM