「落花生ってなんで落花生なの?」
一秒、二秒と間を置いてから「漢字の理由が知りたいの?」と問い返せば、手元を見つめたままこくんと頷いた。
ふむ、と顎を触るがすぐにスマホを手に取る。こういう由来の調査やイメージを挙げるときこそインターネットに頼るべきである。幼い子供の隣ですぐ検索結果を見せるのも探求心を減衰させそうで悩むが、おやつタイムには逆らえないからね。……などと心の中でだけ喚く教育熱心な己に言い訳を提出しておく。
そして落花生を剥いて小さいお口に渡しながらテーブルに寝かせた画面をスクロールした。
「なんか、落花生のお花が理由なんだって」
「ふうん。ね、ね、それちょうだい」
ふうん、って。興味がないのか。聞いたのはそちらさんだけれど。続けようとした説明も頭から放り出して黙って奥のコップを取ってやった。
子供だから、まあ、そういうこともあるでしょう。
剥いてやる手を止める。なんだかコーヒーを淹れたかった。一度スマホの画面を落としてカーテンで隔てられたキッチンへと向かい、沸かしておいた湯を湯呑みの中の粉へと注いで混ぜる。薄かった。
心の中でだけ喚くコーヒー好きの己がやいのやいのと騒ぐが、薄い上に湯呑みで飲むななんて今更の話であった。ここ数年のおっちょこちょいでカップが減りまくっているので仕方がない。香りはマシなのだし良いのである。
小さな体の隣に再び腰を落ち着け、また落花生を手に取る。中身を盛った皿はすでに空になっていたので、二人でもそもそと指を動かしていく。それでもスピードは随分と差がついていた。
大変頑張っているようだが、難しいのだろう。諦めて差し出されたそれを恭しく受け取り、すぐに剥いて口に放り込んでやる。そうして嚥下まで見届けたらその口が動き出した。
「きれいな漢字だよね」
殻皿へ捨てる間にコーヒーを覗き込んで嗅ぐ、丸くて小さな頭を見下ろす。どういうことだろう。
「流れ星みたいなお花なのかな」
一秒、二秒と間を置いてから「私もお花は見たことないな」と相槌を打った。
彼女の頭上で、薄く黒い夜空の中に星の花が落ちていく様を、ひっそり想像する。良いな、落下星。なら、うん、それでいいんじゃないかな。生来の怠惰よりも愛おしさでそう考える。
出しっぱなしにしていたパッケージの印字をそっと遠ざけて「今度、見に行こうか」と笑った。
6/19/2023, 10:15:40 AM