Open App


 恥ずかしいけれどはっきりした目的を持っている訳じゃない。
 彼のような、なし得たい壮大な目標がある訳でもない。生を受け、一日一日を懸命に生きるのでいっぱいいっぱい。『生きる意味』を私は見いだせないでいる。
 ぐにゅりと抱いているぬいぐるみに力が入った。友人は家族を探すため、なんとしても生き抜く必要がある。彼はこれからも戦いに明け暮れるだろう。私も意味があれば…もっと

「ぬいぐるみが別の動物になりかけてるよ」
 おどけた彼が「ぐえぇ」とぬいぐるみの心境を代弁して見せた。大きな抱き枕のクジラは私の腕によって見事なくの時になっている。
「嫌な事でもあった?それか悩み事?」
「人生に意味を持たせようと…」
「また突然だなぁ」
 だって周りが一般人と例えるには遠く、才能に恵まれ魅力的な人たちばかりなのだ。聞けば生きるための強い目的があると殆どが答えてくれた。

「俺は…まぁ夢があるけど君も『生きる意味』に入ってるよ。これから先も過ごしてさ、君の色んな顔が見たい。急に思い立って見いだすものじゃないだろ?些細なことでいいんだ。あれがしたい、これがしたい…とかね」
「したいこと…。」

 したいこと、やってみたいこと。頭に浮かんだものを口に出す。
彼と…
「新しく出来るカフェに行ってみたいし、一面のひまわり畑を見てみたい。海沿いを歩いて夕陽を眺めたり、見られる流星群を見てみたい…」
「うん。君らしくていいんじゃないかな。ただ気付いてる?」
「なにに?」
 ソファに座っている彼の腕にぬいぐるみごと閉じ込められた。思ったより力が入っているけどぬいぐるみがクッションの代わりになってさほど苦しくない。

「君が話した内容全部に俺がいたこと。どこへでも連れていってあげるよ」
 
 当たり前過ぎて忘れていた。
「私ってあなたと過ごしたくて生きてるみたい」
 お互いが『生きる意味』。私はすでに見つけていたらしい。

4/27/2023, 11:56:35 PM