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『君を照らす月』

ビルの窓拭きアルバイトをしていたことがある。
ゴンドラは結構揺れて、何度か怖い思いもした。
その一方で、キレイに磨き上げたガラスがキラリと反射するさまや、窓の中の人々の様子が楽しくもあった。

短い間だけで、すぐに辞めてしまったが、好きな仕事だった。
強風が吹く日や雨などの荒天、夜間は中止になる。危険だから。

けれど、たまに夢想したものだ。
夜の高層ビル、ワイヤーで吊るされたゴンドラに乗り込む自分を。

夜の作業は街の喧騒から切り離され、窓に映る夜空はまるで宇宙船の中にいるようだろう。
​見上げた先には、満月。
濃紺の夜空にくっきりと。
オレンジがかった濃い黄色。
箸で突いたらトロリと黄身が流れそうな。

そんな月の光に照らされてみたい、と。

11/17/2025, 7:24:58 AM