なんか、もう、ここまできたらなんでも許される
…そんな気がした。
恋というには深く、愛というには中身のない、そういう一方的な恋愛をしていたのだ。素直に片思いといえばいいものを報われないことが分かりきっている現実から目をそらすために恋愛だと思い込んでひたすら追いかけた。
物理的な距離は1ミリも縮まらないのに、恋愛脳フィルターをかけて普段の会話ですら恋人同士がするような甘さを含んだものに変換してメロメロになる。目が合う、隣に並ぶ、笑い合う、なんてことは起こり得ないのに勝手に頭の中でその場面が再生されてその幸福感に酔いしれるのだ。
ゴテゴテにデコられた無駄に分厚い日記帳には本当にどうでもいい些細なことまで時間場所状況を細かく書いてある。恋愛小説、というよりばっちり自己投影された夢小説のようだ。
うわあ、と思いながらガムテープでぐるぐる巻きにしてゴミ袋に入れていく。これは思い出ではない、ただの黒歴史。誰かに見つかる前に処分して置かなければいけないものだ。
まあ、でも。こんなに狂っていても誰かを一途に想うのはとても幸せだった。内容や書き方はさておき、相手を想って想いすぎた妄想止まりの幸福はなんとなく目を引く。本人には悪気も邪気もないピュアな恋心とそれに伴う隠しきれない言動。それは本人以外には不気味なものでしかないだろう。
「…まあ、私は報われたから、よかった…」
左手薬指に光るものが証拠だ。そして今こうやって片付けをしているのも、いらないものを捨てているのも、これから始まる生活のためだ。絶対に知られたくない知られてはいけない私の恋愛ごっこ。
ああ、これからが楽しみだ。妄想なんかでは終わらせない、私だけの―――。
【題:ひそかな想い】
2/20/2025, 12:38:11 PM