【たった1つの希望】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
3/1 PM 4:20
「暁、ちょっとこっちに来て」
「うん? どうしたの、しぃちゃん」
「「誕生日おめでとう」」
「えっと、なんでこんな隅っこで
こっそりな感じなのか分からないけど、
ありがとう、しぃちゃん、とっしー」
「はい、プレゼント。良かったら使って」
「わぁ~、見ていい?」
「どうぞ」
「ありがとー。……ハンドクリームだ!
スミレの香りなの? 春らしくて素敵。
気分が上がりそう」
「おれからは、これ」
「……わ。可愛い~、お花のイラスト
描いてある。オシャレなデザインの
リップだね! 色もフローラルピンクで
とっても綺麗。ありがとう、とっしー」
「気に入った……のか?」
「モチロンだよ~!
2人とも、センス抜群だと思う!」
「(全く嫌がられてないっていうだけで、
十詩希(としき)にとっては
恋に進展するかもしれない、
たった1つの希望になるわよね……)」
3/1 PM 6:30
「それじゃ、改めて」
「誕生日おめでとう、暁」
「うん、ありがとう!
……なるほど、嵩張るってこういう
ことだったんだね」
今朝宣言されていた通り、
学校から帰ってくると、
宵ちゃんと真夜(よる)くんから
プレゼントを手渡された。
1つはわたしの身長と同じくらいの
抱き枕で、学校に持って行くのは
確かに無理がある。
「うわ~、ふかふかで肌触り気持ちいい~。
ものすごく良く眠れそう」
「まぁ、安眠して貰うために選んだから」
「えっ。真夜くん、その理由って……、
まさか2人とも、まだうなされたの
心配してるの!?」
「別にそれだけが理由じゃないわよ。
アンタはしょっちゅうゲームで夜更かし
してそうだから、それを改善させようと
思ったの。ほら、こっちも試してみなさい」
そう言って、宵ちゃんがもう1つの
プレゼント――アイマスクを装着させて
くれる。
「あ、これもふんわりした付け心地が
いい感じだね」
「振動モードと温熱モードが使えるわよ」
「……ヤバイくらい気持ちいいです……。
これ、絶対すぐ寝落ちするよ~」
「15分で自動オフされる機能があるから
寝落ちしても問題ないわ」
「……それは安心だね~……。もー……、
2人ともほんとに優しいんだから……」
3/1 PM 10:45
ベッドの上には、宵ちゃんと真夜くんから
貰ったプレゼントの抱き枕とアイマスクが
置いてある。
2人からの愛の形と思うと、嬉しくて、
胸がいっぱいになってしまう。
(そういえば……)
天明(てんめい)くんに貰ったプレゼントを
まだ見ていなかったことを思い出した。
(あ、お手紙がある。えーと……)
『真夜と宵に、今回のプレゼントの
テーマは安眠グッズって聞いたから、
俺も便乗させて貰ったよ』
(あはは、なるほど~。
だからピローミストなんだ)
スプレーするタイプだったので、
早速抱き枕にひと吹きしてみると、
ラベンダーの柔らかな香りが広がった。
(いい香りだよー、天明くん。
安眠効果、バッチリって感じ)
こんなにも、穏やかに眠りにつける、
とてもとても幸せな誕生日が。
今、幕を閉じようとしている。
3/2/2023, 4:31:13 PM