たぬたぬちゃがま

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成分の半分は、優しさでできている。
そんな謳い文句の頭痛薬を飲み込み、こめかみをグッと押した。
頭が痛い。急な雨が続いたからか頭が重くて仕方ない。目の奥がずぅんと重くなって、目を開けるのも億劫だった。
本当はきちんと医師にかかって処方してもらうのが一番なのだろうが、もはや持病と言っても差し支えない程度には襲ってくる頭痛に、有休を消費するのももったいないと思ってしまった。
優しさなんていいから、早く効いてくれと願いを込めて頭を揉む。

「頭皮マッサージいかがすか。5分500円。」
自分の手より一回り大きい手がぐりぐりと揉み込む。程よい強さで気持ち良い。
「お願いします、30分0円で。」
「時間伸びてるしタダでやらせんのかよ。」
彼が呆れたような声を出すが、マッサージの手は止まらない。するすると肩に降りて揉み込んでくれた。
「相変わらず硬いな、石詰まってないか?」
グリグリと肩に指が押し込まれて思わず声がもれる。
「石、砕いてください……。ついでに肩甲骨も剥がしてください。」
「0円でやらせてるのに注文多いな。」
口調とは異なり両肩を優しく撫でると、胸を張るような体勢にググッと力を込められる。
じんわりとした温かさがとても気持ちよく、ほう、と息を吐いた。彼は慣れた手つきで、マッサージを続けていく。
「はい、施術料1万円ね。」
彼がぽんぽんと肩を叩くが、こっちは夢見心地でつっこみきれない。それほどに良い手なのだ。程よい力と、程よい温度と、程よい大きさと。肩から彼の手を取り、自分の手と絡ませてみる。
ふと、頭痛が治っていることに気づき、手放せないなあと思った。頭痛薬の半分の優しさを補うのはこの手なのかもしれない。
「……お前、まさか俺より俺の手に惚れてない?」
少し引いた顔をした彼に、私はあえて何も言わずに笑い返した。


【やさしさなんて】

8/11/2025, 6:57:25 AM