「だーれだっ」
夕日のオレンジ色をした軽やかな声と共に、僕の眼前に小さな夜が広がる。
【クイズに答えて夜が明けた。】
「誰でもいいけど、邪魔しないでよ。今僕が本読んでるって、見ればわかるでしょ」
「あ、わかんない? じゃあ特大ヒント! 君がこの世で一番好きな人だよ!!」
「ちょっと心当たりがないなあ」
僕にこんなことをするのはこの世に一人、君だけだとわかっているが、素直にその名前を呼んでやる気は起きない。というか、ヒントのせいで答えづらくなった。
「えー、まだわかんない? じゃあ中ヒント!」
「ヒントの出し方の順番おかしくない?」
「君が今日、いつもみたいに『おはよう』って声をかけることができなかった人だよ!」
……君だって、いつもみたいに僕の顔を見て微笑みかけてくれなかったじゃないか。
「じゃあ最後、小ヒント!」
「降順なの……?」
「君が今、仲直りしたいと思ってる人だよ」
ぷつり。情報は全て出しきったとばかりに、君はそこで言葉を切った。真夜中に似た静寂の中では、君の気持ちはわからない。真夜中に似た暗闇の中では、君の表情はわからない。
わかるのは、君の手の温度と、僕の気持ちだけ。
「……はあ」
僕の負けだな、と諦めて、白旗を振るように君の名を口にする。
「せいかいっ!」
朝日の白色をした軽やかな声と共に、僕の眼前に朝がどこまでも広がっていく。
4/28/2025, 11:15:28 AM