Sasha

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そのとき、私の当たり前だった日常が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちた。

夫が失明したら、今の仕事は続けさせてもらえないだろう。かといって、私の稼ぎだけで子どもを進学させられるとは思えない。

実家に援助を申し出るか、さもなくば息子に大学進学を諦めてもらうしかない。

当たり前の日常が、いかに有難いものだったのか。そのことを痛切に感じずにはいられなかった。

「ちょっと銀行行ってくるわ。」

夫は相変わらず飄々としている。彼は昔からこうなのだ。

「だって片眼は大丈夫なんでしょ?そんなに深刻になることないよ。」

「いや、まあ、そうなんだけど…。」

片眼だけだから良かったと考えられるのが夫で、残った眼まで失明したらどうしようと深刻になってしまうのが私だ。

一人で最悪のパターンをシミュレーションして、勝手に落ち込んでしまうのは、昔からの私の癖だ。

だが、それが効を奏することだってある。楽観的な人間ばかりなら、世の中は進歩していないはずだ。

世の中を進化させてきたのは、いつだって悲観的な人間だ。

「パパが大丈夫だっていうんだから、大丈夫なんでしょ?」

高校生の息子は、あくまで楽観的だ。息子はまだ、この世界の残酷さを知らない。

【私の当たり前】

7/9/2023, 10:41:09 AM