たまき

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#85 声が聞こえる


奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の
声きく時ぞ 秋は悲しき

「…ぃ…おい、起きろ。紅」

ん、なに…バンビの声だ。
せっかく気持ちよく寝てるのに。

「ったく、ノーテンキな寝顔やめろ。いい加減起きろって。電車なくなるだろ」

あ、悪口。いけないんだーうふふ。
許さないもん…ね…

「…やめた。こいつは朝まで起きない。知ってた」

あと少しで浮上できた意識は沈んでいった。



「…あれ、あさ?」

目が覚めた。目線だけ動かして時計を見ると針は午前3時を指している。

「…あさじゃない…」

テーブルに突っ伏して寝ていたせいで痛む体をギギギと起こすと、反対側でバンビが寝ていた。

腕を組んで座ったまま。

「おお…」

座布団だから落ちる心配はないけど…。
俯いている顔をそっと覗き込むと…うん寝てる。

体も壁に寄りかかってるけど、まるで起きてるみたいに見える。

飲み散らかして食べ散らかしていたはずのテーブルは片付けられていて、バンビの前に缶ビールが一本あるだけ。ん?なんで一本?まあいいや。

そっと立ち、台所で水を飲む。
今年もまたすっかりバンビの世話になったようだ。

「なんでだろうなぁ」

秋だなぁ、と思うと。
バンビの「まったくコイツは」って呆れてる声が聞こえる気がする。
なんだか呼ばれてるような。

そうするともう彼氏といるのがつまんなくなって、
我慢できずに別れてしまう。

フリーになるとバンビと会いたくなって家にお酒持って突撃。そんなのを繰り返して、もう何年だろう。

「ねえ、バンビ。なんでだろうね?」

1回会って飲めば、いつも満足だけど。
もう少し一緒に居てみたら何か分かるかな。

とりあえずバンビの布団で寝直してから考えよう。

「座って寝てるくらいだし、いいよね」


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前話「秋恋」の彼女視点から。

人里離れた奥山。積もった紅葉の上を歩きながら、鹿が鳴くのを聞くと、感情的になっちゃう。それが秋だよねぇ。
大まか、そんな感じです。

大人なのになぁとは思いましたがバンビ限定ということで。
竜田姫と鹿のお話でした。

9/22/2023, 11:48:19 PM