作家志望の高校生

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スマホの光に顔だけを照らされ、暗闇の中寝そべって意味もなく大量の情報を貪る。時刻はもう深夜と言って差し支えないが、まだまだ当分寝付けそうになかった。こんなゴミみたいな生活を続けて、もうどれだけ経っただろうか。大した目標も目的もなく、惰性で学校に通い続けて。疲れて帰って、何をするでもなくスマホを眺めるだけの日々。未来なんて思い描けそうにもなくて、将来の夢を想像しても灰色に塗りつぶされた汚い何かが瞼の裏に映るだけ。
そうやって、人生の貴重な時間を浪費し続けている。スマホを手放してしまったら、麻酔を打ち込むのをやめてしまったら、とてつもない焦燥と自己嫌悪で死にたくなるから。色の無い世界の中で、唯一鮮やかな色を映すスマートデバイスを片手に、気絶同然の入眠を待っていた。
そろそろ来る、と思ってから数分後、俺は意識を失うように眠りについた。
目の前に広がるのは、現実ではあり得ない世界。見た瞬間、咄嗟にこれは夢だと気付いた。一番目を引くのは、一面に広がる巨大な水槽の、青。深い深い海のようにも、鮮やかで軽やかな青空のようにも見える色。その青いキャンバスに、何の共通点も無い色達が散らばっている。白いインクの染みがそのまま動き出したような、シーネットル。丸く艷やかな光を放つ真っ赤な桜桃。いつかの帰り道で見たような、黄色い水仙の花。青のフィルターをかけて尚鮮やかなそれ。それは間違いなく、あの退屈でどうしようもないモノクロの世界で生きた俺の、確かな記憶の断片で。
失ったと思っていた色は、俺が封じていただけだった。夢は記憶の整理中の風景だと言う。つまり、この鮮やかな色達は、俺の心に確かに存在していたのだ。あの小さな箱に囚われて、こんなにも美しい世界の色を見なかったのは、俺だった。
俺の意識の及ばない夢の世界はもうとっくに、惰性なんかじゃない、俺の生きる意味を見つけていて。それを、この巨大な水槽に閉じ込めていたのだ。
どうせ夢なのだから、と、俺は全力で水槽のガラスを殴り付ける。派手な音を立てて、色の濁流が俺を飲み込んだ。夢なのに息苦しさを覚えたが、それも全部含めて、この世界の色だと受け入れる。目まぐるしく駆け抜ける過去の情景を眺めていると、遠くで目覚ましのアラームが聞こえてきた。
目を開けて真っ先に目に入ったのは、色を失って尚夢を捨てきらなかった俺の部屋だった。色も分からず描いた水彩画で埋め尽くされた、俺だけの世界が広がっていた。

テーマ:心の中の風景は

8/29/2025, 3:35:07 PM