かじかむ手を擦りながら、白い空を見上げる。
雪はまだ降らなようだ。
俺は雪が舞う町の写真を撮るため、ここでその機会を待っている。
この地域は雪が降っても一瞬で止んでしまうので、シャッターチャンスを逃さないよう、ここで待っている。
長丁場なのを覚悟して、かなり着込んできたのだが、予想以上の寒さだ。
刺すような寒さに身を震わせながら、雪を待つ。
心の中の弱い家に自分が帰ろうと言うが、その度に頬を叩いて気合を入れ直す。
ここで妥協なんて出来ない理由があるのだ。
その理由とは、俺と友人との勝負だ。
どっちがキレイな写真を撮るかの写真勝負。
友人とは幼馴染で、何かにつけて勝負して遊んでいた。
その時の気分で勝負内容を決めていた。
写真勝負だって今回が初めてだ。
そして最後の勝負でもある。
友人はもうすぐ引っ越すのだ。
海外に…
海外に行ってしまえば、二度と勝負は出来ない。
年内に引っ越すので、これがタイミング的に最後の勝負になる。
今までの勝負は、毎回真面目にやってきたわけじゃない。
フザケたり手を抜いたりした事もある。
その度に怒られたが、向こうもたまにサボるのでお互い様だ。
でも今回は手を抜いたりはしない。
アイツと俺の最後の勝負が、最後の思い出が、いいかげんなものなんて、絶対に嫌だ。
だからこそ、俺は妥協しない。
予報ではそろそろ降るはずなのだが、まだ降らない。
雪はまだかと空を見上げると、少し遠くの方に黒い雲が見える。
あれが雪を降らせる雲かもしれない。
俺はスマホを取り出して、カメラを起動する。
雪が降る瞬間を逃さないように、空の様子に集中する。
恐ろしく寒かった空気も、今では全く気にならない。
黒い雲が少しずつ近づくのに比例して、遠くの景色が白くなっていく。
もう少しで、ここにも雪が降る。
チャンスを逃さないよう、じっと雪を待つ。
12/16/2023, 9:58:26 AM