わをん

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『微熱』

職場が同じあの人を前にするとカッと体が熱くなってしまい、何も話せなくなる。体温計で測ってみたらきっと微熱か高熱一歩手前ぐらいの数値は叩き出せるんじゃないか。いつかデートに誘ってみたいという思いはあるものの、こんなことではいつまで経ってもデートの誘いは出来そうもない。どうしたらデートの誘いをかけられるだろうと同僚に相談してみると、そういう状態になるような相手とは恋愛に向いてないと言われてしまった。
そんな同僚があの人と街を歩いているのを見かけてしまった。こちらに気づいた同僚は目を逸らしたが、あの人は私に向けて手を振ってくれた。私の体は今までのようにカッと熱くはならなかったので、落ち着いて笑顔で手を振り返せたと思う。ふたりと私は軽く会話をして別れた。
家に帰り着いた私はなんだか具合が悪い気がしてきてベッドに横になった。あの人のことを想ってもこれまでのように楽しくならない。あの人を前にする場面を想像してみても体温はきっと微熱にも届かない。同僚はどんなことを思いながら私の相談を聞いていたのだろう。いろいろと想像することか嫌になって、私は目を閉じてしまった。
翌日。私はあの人と昨日の話になった。
「えっ、付き合ってるわけではないんですか?」
「うん。買い物付き合ってとは言われたけど、それだけ」
昨日の具合の悪さを引きずっていた私は途端に元気が出てきた気がした。そして、ふと、体がカッとなることなく会話ができていることに気がついた。同僚の理論で言うなら、恋愛に向いているということになる。
「じゃ、じゃあ、私とデートしてくれませんか?」
「デートなんだ。買い物じゃなくて?」
「デートです!」
ふふとあの人は笑うと、いいよと返事をしてくれた。返事を受けた私の体は今おそらく微熱以上にはなっているに違いなかった。

11/27/2024, 3:19:17 AM