習作
あるゲームのCP小説です。
(根√のネタバレがある可能性があります)
※前作までとは別ゲームです。
⸺1700字程度
貝殻
「みてみて!これ、こう耳に当てるとザザー…ザザーって聴こえるんだよ!ほらほら持って!」
半ば強制的に持たされる。
そして、彼はにこにこと耳にあてるのを待っている。
しょうがない…
私は貝殻をあて、耳をすます。
少し、耳に蓋をされたような感覚。
周りにいる人達の声が少しだけ落ちる。
「確かに、海の音が鮮明に聴こえるような気がしますね。」
「そうでしょ、そうでしょ!1個持って帰ろうかしら」
こんなテンションが高いような様子も、彼や私の同期たちが見たらいつものようだと思うかもしれない。
でも、何か気持ちを隠しているような気がする。
「先輩」
「ん?どうかした?
……あらやだ、そんな真面目な顔して、まさか別れ話!??」
そんな一人寸劇をよそに先輩の手を引く。
「こっち来てください!」
「……?」
◇◇◇
私は人が殆どいない方へと足を運んだ。
「こんなとこまできて…もしかして…そういう、こと…!??」
先輩のそういうところが良くないと思います。
なんて頭には浮かぶものの、私も乗ってしまうんだからお互い様だ。
私は彼を、いや彼女を岩陰へ押しやり顎に手を添える。
『そうだ、って言ったらどうするんだい?』
彼女は目を反らし少し顔を赤らめる。
しかし、また目線を合わせる。
『私は受け入れるから、貴方の全てを』
「なーんてね!いや、本当にどうしたの?なんかあった?」
彼は即興劇をやめ、心配そうに尋ねる。
「先輩、何か隠してますよね」
「…うーん、流石に君にはお見通しか…」
「私が海に来たいと行ったから、ですか?
無理させてしまったならすみません。」
「いやいや!それはもう終わった事だから、なにも気にしてないし、本当に楽しみだったよ。ただ…」
先輩が言い淀む。なにか、深刻な事かもしれない。
喉に溜まったものをごくりと呑み込む。
「君があまりにも可愛くて…」
「え…」
考えもしなかったことを言われ恥ずかしさのあまりその場に座り込む。
「恥ずかしいです…」
先輩はしゃがんだ私と同じ目線に立った。
そして、私の髪を優しく掬い、続ける。
「それに、その可愛い君を見ている人は僕だけではないんだと思い知らされた」
そういうと、彼は俯いてしまいどんな表情をしているか分からなくなった。
「先輩…?」
「こんな僕だめだなぁ…君にこんな感情を向けるべきではないと、隠していた筈だったのに」
顔を上げた彼のその表情を確認すると、彼は自嘲したような乾いた笑みを浮かべていた。
「『私は受け入れるから、貴方の全てを』」
私は、彼を優しく慈しむように、抱き締めた。
「先輩がさっき言ったんですよ。あれ、演技ではありましたけど、本心でもありましたよね?」
「ははっ…君には敵わないね…」
「どんな感情でも先輩に違いありませんから。私、先輩が思っているより心広いんですよ!」
口を膨らませて、ぷいと外を向き主張する。
先輩の方を見ると、あっ…と声が漏れた。
頬に彼の手の感触。
彼の唇が触れ、小さな音がなる。
「先輩…」
「なんで君はこんなにも可愛くて、魅力的で、僕の心を動かさせるんだろう。」
顔の輪郭、首、と順になぞられくすぐったく震える。
当の彼を見れば、優しく慈しむようなそんな表情をしていた。
「好きだよ。本当にありがとう」
「私も好きです」
先輩の頬に手を添え、今度は此方から
未だなれず、徐々に唇を近づける。
軽く音がするのも、ドキドキしてしまう。
そんな私を見かねてか、先輩が「ふふっ」と笑う。
私は顔を隠す。
慣れていないのは自分だけなのかと思うと恥ずかしい。
◇◇◇
少し冷たい風が吹く。
「じゃあそろそろ戻ろうか」
「はい」
自然にお互いの手が触れ、絡み合う。
それが幸せなんだと実感する。
「先輩」
「んー?」
「『私の目はずっと同じ方を見つめています』」
「今、この瞬間も」
先輩は顔を赤らめる。
「参ったなぁ…僕のアルジャンヌが可愛すぎる…」
「私のジャックエースは先輩、1人だけです!だから心配しなくて大丈夫ですよ」
◇◇◇
おまけ
「あ…そういえば、先輩が貝殻持って帰ろうと言っていたのに忘れちゃいました…」
「あぁ、気にしないでいいのに!ありがとね。また行けばいいさ、行ってくれるかい?」
「はい!もちろんです。」
「んー!好き!」
彼に思い切り、でも苦しくない程度に抱きつかれる。
その温もりを少しでも離さないように、離れないように
私も優しく抱き締めた。
9/5/2023, 5:14:24 PM