“いのち”と呼ばれものを授かってから今まで、一度も“ひかり”と言われるものを見た事がない。
“いろ”というものも知らないし、会話する相手の“かお”というものも分からない。
ただそれらには種類があって、個性があるらしいと聞いた。
個性については理解している。対話を重ねればそれは見えなくても得られる情報だ。
生憎“かお”の個性は全く微塵も認識出来ないが、その人格の個性は認知できる。
「リリオ、先にいくね」
友人の震えた声が離れていく。
今日はそれほど寒くないのに、どうした事だろうか。
そういえば最近、風邪が流行っているという。
心優しい友人も感染してしまったのかもしれない。
「風邪、早く治るといいね」
返事はない。
遠くからグシャリと果物が潰れるような音がした。
視界の端に何かが映る。
初めて見えたそれは、とても綺麗な——。
「ねぇ、もしかして……アレが“ひかり”?」
背後にいるであろうクラスメイトに声をかけると、クスクスと忍び笑いを漏らした何人かが近づいてきて。
「アレは“いのち”だよ。すぐに消えちゃうから、もっと近くで見てごらん」
背中を押されて足を踏み出す。
そこに地面の感触は。
10/17/2024, 6:39:17 AM