maria

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「開けないLINE」


約束事のある前日の

あなたからのLINEは

こわくて開けない。

だから最悪の状況を想像して

これ以上傷つかない準備をととのえてから

部屋で独りになってから開く。

『あした、映画のあと
 何か予定はありますか?』  

こんなふうに文字のひとつひとつを

ゆっくりとなぞるようにみて

貰ったことばをだいじにだいじにしてるなんて

あなたには想像もつかないかもしれないけど。

電話みたいに

文字を頬にあてるなんて

決して見せられない姿だけど。

………………

映画に誘ってみたけれど

彼女は義理で来てくれるんだろうか。

『映画?いいですね!』の短いLINEを

何度ながめたか。


あの笑顔で打ってくれたのだろうか。

できればその後も食事をしながら

感想を語り合いたい。

だけど予定があるのかもしれない。

僕とは映画だけのつもりかもしれない。

なんと書けば

なんといえば

なんと書き始めたら

なんと……ああどうしよう。

『あした、映画のあと
 何か予定はありますか?』 

ようやく送信したLINEなのに

彼女からはなかなか返信が来ない。

映画だけのつもりだったか。

僕とは隣りにいるのは三時間が限度か。

映画館では話さなくてもいいから

OKしたのだろうか。

押し付けがましい文章だったか。

下心があるようにとらえられたか。

返信が届いた。

こわくて開けないLINE


ようやく意を決して開いてみると


『1日中、予定はあけてあります。
まずは食事をしながら
感想を語り合うのは
どうですか?』


ああ 神様!

この世に神様はたしかに存在する!!

まずは  と書かれてある。

このことばがこんなに重いとは。

僕は画面を胸に当ててから

返信を書き始めた。


        「開けないLINE」






  

9/1/2023, 3:26:36 PM