思い出

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生まれて初めて、時間が止まって欲しいって願った。

夜景を眺めながら少し歩くと、
私達はヴィンテージ風のシックな雰囲気で、どことなく
大人っぽいと感じるレストランに着いた。

「此処で良いかな?」

彼は私の方を振り向き、首を少し傾げた。
私は頷いて、彼は微笑み、入口にエスコートしてくれる。

〔ありがとう。〕

彼はどういたしまして、と笑っている。やっぱり、いつもと違う雰囲気の彼にも、ドキドキとする。

店に入ると、ジャズの様な音楽が流れている。何と言うか洗練されている。私は少し緊張をして俯くと、彼は、

「大丈夫だよ。席はテラスでも良い?」

と言い、私に優しく話し掛けてくれる。
彼の声にホッとする。

〔うん、テラス席、楽しみ。夜景が観えるかな?〕

彼の方を向いて、笑う。
彼も笑い、うん、観えると思うよ。と言って、手を引いてくれる。
先程のエスコートや、こういったさり気ない気遣いに、
緊張は解けていくのに、ドキドキがすごくなる。

案内をしてもらい、テラスに出る。夜景は、良く観える席になった。ラッキーだ。

お互いに席に着き、メニューを広げる。洋食がメインで、ブラウン、ホワイトシチュー、パスタ、ハンバーグ…
かなりのメニュー数で、迷ってしまう。

まず、シェアが出来る料理を頼むと、
彼はパスタ、私はブラウンシチューを頼んだ。

料理を待っている間に、ふと

「ねぇ、夜景をバックに一緒に写真撮らない?
お店の看板に撮影OKって書いてあったからさ。」

と言って、彼はカメラをセットする。
周りにお客さんも見当たらないし、
私は良いよ、と言って席の横に立った。

「…うん、良し。タイマーは十秒ね。
じゃあ、撮るよ!」

彼は私の後ろに回り込み、一言ごめんね、とだけ言って、
鎖骨の下の辺りに、手を回してくる。
俗に言う、バックハグの状態だ。

〔え?〕

驚いて振り向きざまに、パシャ!と音がした。
彼を見ると、ニコッと笑っている。

「さっきのお礼。ありがとね。」

彼はそう言って、回した手を解き、カメラの確認に戻った

「良い写真が撮れたよ!」

私の方を向いて、彼は満面の笑みを浮かべる。
自分の顔が熱い。どうしよう。

戸惑っていると、またシャッターの音がした。

「…ごめん、すごい可愛かったから。消した方が良い?」

彼は申し訳無さそうに言う。私は、大丈夫。とだけ伝え、席に座った。彼も席に戻り、ありがと、と言って座る。

私をじっと見つめて彼は、時間が止まればいいのに。と、
小さく一言だけ呟いた。
私は、どんな顔をしていたのだろう。

9/19/2023, 12:45:20 PM