駒月

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 女は美しかった。
 その潤んだ蒼色の瞳は男の心を囚えて虜にした。

「──じゃあ、一緒に死んじゃう?」

 長い黒髪を指ですいて女は儚く笑う。
 男は心中に誘われているというのに……風に揺れる髪に、切なげな瞳に、胸が高鳴った。
 お互い現世に未練はない。ならば共に手を取って、というのも悪くはないだろう。
 だが、もう少しだけ、この美しい女に触れていたい。その男の思いが淡い絆を斬り殺した。
 自分だけのモノにしたい。そんなことを願わなければ、女が病に冒され死にゆくまで共に在れたというのに。

「うそつき」

 そばにいると約束したのに。
 女は胸に短刀を突き立てられながら、恨みの言葉を吐いた。
 その姿すら美しい……男は女を掻き抱く。 
 放たれた火はすぐそこまで迫っていた。
 何故殺してしまったのか?何度自問しても変わらない。他の男に取られるくらいなら、ここで殺して永遠に自分のモノにしたかった。
 だが、美しい女はもう二度と戻らない──男のモノには決してならなかったのだ。
 



【美しい】

1/17/2024, 6:10:58 AM