私の実家は、最寄駅から徒歩10分弱のところにあった。
駅から家までの道のりは、ほとんど明かりがなく、真っ暗だった。
正確にいうと、高3の途中から大きな道路が通るようになり、信号が設置され、少し明るくなったが。
部活のある日は、既に真っ暗になった道を1人で歩かなければならない。
文字通り、月明かりを頼りに歩いた。
道沿いに小さな用水路が流れていたので、ぼうっと歩いていたり、歩きながら携帯を操作したりすると、うっかり足を踏み外して用水路に落っこちそうになる。
また、電信柱には「不審者注意」の張り紙がしてあり、実際に遭遇したことはないのだが、なんとなく不審者や幽霊に怯えて早歩きで電信柱を通り過ぎることもあった。
大学生から都会に出てきて、そんな悩みはすっかり縁遠いものになった。
帰り道には飲食店やコンビニエンスストアが立ち並び、街灯も数えきれないほどたくさん設置されている。
どんなに遅い時間でも人の気配がある。
足元が見えづらく転ぶなんてことはありえない。
なんとも快適だ。
女の一人暮らしには、このくらいが心強い。
ただ、たまに思い出す。
冬のツンとした空気のなか、道を照らす満月。
街灯のようにオレンジでも真っ白でもなく、蒼白い月の光。
満月の日は、足元がよく見えて安心したものだった。
そんな日を思い出すと、都会の喧騒溢れる明るい路地が、なんだか空虚に思える。
思い出を美化しているだけかもしれないが。
12.月夜
3/7/2023, 12:17:56 PM