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「さあ、着きましたよ、ここが100年後の世界です」
扉が開き、百を優に超える人間がゾロゾロと階段を降りてくる。老若男女様々な顔ぶれが、口々に感嘆の声を上げる。ああ、これで俺たちは救われた! 新しい日々が始まるのだわ! 喜びの呟きはやがて全体の意思となり、あちらこちらで歌ったり踊ったりのお祭り騒ぎとなった。

「皆さん! いいですか、聞いてください。今日この日は、始まりに過ぎません! 100年前の食糧難を再び起こすことが無いように! この地を豊かに保たねばなりません」
大きな扉の前、巨大な船から伸びた階段の最上段に立つ男は、司祭の様な長いローブをはためかせ大声を張り上げた。
「我々のノアの方舟は、今ここに、再生の機会を与えられました。さあ、今日ここから我々の時代を始めましょう!」
湧き上がる歓声は、高まった士気と団結力を十分に示し、男は満足気に目を細めて頷いた──

*****

「食糧難を迎えるのも時間の問題です。いずれこの国の民は貧困と飢餓にあえぐでしょう」
重々しい声が静かな部屋に響く。その声に返事は無く、深いため息が後に続く。
「私から提案があるのですが……」
沈黙を破ったのは、最近着任した若い大臣で、会議室の視線を一身に受け話し始めた。
「東の国には、とある医術があるらしいのです。なんでも、人々に新たな記憶を組み込むことが出来るのだとか。そこで、こんな記憶を組み込むのはどうでしょう?」


「『現在は100年後の世界。自分たちは、食糧難を乗り越えるべくタイムマシーンに乗った選ばれた人間だ』と」


【タイムマシーン】


1/22/2023, 11:30:47 AM