かたいなか

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「『星』は今後、複数回のお付き合いなんだわ……」
先月3月15日にも、「星が溢れる」ってお題が来てたわな。あと近いうちに流れ星が来て、数カ月後に「星空」と「星座」なんよな。
星か。某所在住物書きは呟いた。星が複数回、月も2回程度、「空」が付くものはたしか10くらい。すなわちこのアプリにおいて、単純計算として月に1回は星だの空だののネタが来るのだ。
その中でいかにネタを枯渇させずに書ききるか。
物語投稿者には、ひとつの試練と言えよう。

「去年は星を花に見立てて乗り切ったわ」
物書きは言った。
「つまり、星じゃなくて空の方だが、去年やらかしたのよ。『空』のお題に対してストレートに空をメインに据えたハナシ書いて、段々ネタが枯渇して……」

――――――

最近どうも雨ばかりの東京です。そもそも地上が明るくて、「星空の下で」というより「星空を下にして」日々を歩き続けている人間の住む東京です。
LED照明、液晶看板、高層建築へのプロジェクションマッピングに、満開を迎えた桜のライトアップ。
光、ひかり、ヒカリ。東京は、光に溢れています。
そんな最近最近の都内某所、某稲荷神社の昼を舞台に、不思議な子狐のおはなしです。

この某稲荷神社、都内にしては結構深めな森の中にありまして、人間に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりました。
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。
稲荷のご利益と狐のおまじないをちょっと振ったお餅を売ったり、たまに郵便屋さんごっこをしたり。
昨日は大好きな大好きなお得意様に、お得意様の後輩からのお手紙を届けました。
今日はお得意様の後輩の部屋に、お得意様から後輩へのお返事を届けました。
配達料として貰ったお稲荷さんは、子狐のお気に召したらしく、秒で胃袋に収容されました。

『相変わらず先輩、手紙が報告書か社内文書』
そういえば後輩さん、こんなことを言っていました。
『総務課異動が「当たらずも遠からず」……?』
コンコン子狐、子供だし狐なので「ソームカイドー」を知りませんでしたが、
お稲荷さんのテイクアウトを追加で貰ったので、ぶっちゃけ、気にしませんでした。

さて。
郵便屋さんごっこのひと仕事を終えた子狐です。
テイクアウトのお稲荷さんを手土産に、参拝客ゼロな曇天の神社の敷地内、山桜の咲く木の下で、近所の猫又子猫と化け子狸も呼んで、お花見を始めました。

「総務課っていうのは、給料高い人のことよ」
雑貨屋さんをしている子猫又が言いました。
「お店のまとめ役だもの。きっと、給料いっぱい貰ってるに違いないわ」
今ウチで、新生活応援キャンペーンしてるの。紹介しといてちょうだい。
しっかりものの子猫はニャーニャー、子狐に自分の名刺とお店のチラシを渡しました。

「給料、たかい、」
「総務課だもの。備品の管理とか郵便の仕分けとか、ともかく、すごく大事なことをしてるの。だからいっぱいお金を持ってるのよ」
「ホントかなぁ」
「だって、ウチのゼネラルセクション、社長室の隣にあるもの。間違いないわ」

「ぜねらるせくしょん?」
「正しくはゼネラルアフェアーズだったかも」
「わかんない」
「要するに偉いの。いっぱいお金があるの。今度一緒に営業に行きましょ」

コンコン、ニャーニャー、稲荷神社の子狐と雑貨屋の子猫は2匹して、人知れず、秘密の業務提携。
総務課や庶務課の位置づけは業種によって微妙に違うから、イチガイに「皆給料高い」は難しいんじゃないかなと、化け子狸は言いたそうですが、
結局言葉にできず、口をキュッとして、かわりに温かい狭山茶の2煎目を淹れます。

星空のように満開の山桜は、ホンモノの星のように輝きこそしませんが、薄桃色の5枚花弁を美しく開き、
その下でお花見なり業務提携の密談なりをする子狐と子猫と子狸を、静かに見下ろしておりました。
薄桃の星空の下で宴会ができるのも、あと1週間。
それが終われば東京も、そろそろ春の終わりと夏の始まりの、境界線が見えてくる頃です。

4/6/2024, 2:45:46 AM