ミミッキュ

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"一筋の光"

 今日は朝からずっと曇り空。「雨は降らない」と予報だが、朝は薄らだった雲が少しずつ厚くなっているような気がして『本当に降らないのか?』と何度も疑った。帰路に着こうと扉へと歩きだす患者達に
「天気予報では《降らない》と言っていましたが、空模様が怪しいので雨に打たれないよう、お気を付けて」
 と、声をかけて扉が閉まるのを見送った。
 やはり杞憂だったか、いつまで経っても雨は降らず、夕方になった。流れが落ち着いてきたので、窓の外を見上げる。夕方になっても尚、曇り空が広がっているだけ。
「いらねぇ気遣いだったか……」
 今やお節介となった自分の気遣いが患者達に『かける必要のない心配をあおってしまった』と少し気分が落ち込み、視線も少し下に向いてしまう。
──いけない、まだあるんだ。上を向かなければ。
 パッ、と視線を上げる。
「……っ」
 窓の外。今まで見た事のない光景が目に飛び込んできた。
 分厚い雲の切れ間から夕日の光が漏れ出て、綺麗な光のカーテンができていた。
 窓の錠を上げ窓を開けて、改めて光のカーテンを見る。
 本当に綺麗で、思わず息を呑む。
──あの人達も、この空を見ているだろうか?
 ふとそう思うと、口角が少し上がった気がした。
 深く吸い込んで、長く息を吐き出して身を引き締めると窓を閉める。
──さてと、もうひと踏ん張りだ。
 身を翻し窓から離れて、元の場所に着いた。

11/5/2023, 12:49:49 PM