(テーマ:何気ないふり)
あの子は、何でも食べることができる。
私の家にお泊まりに来た時、夕食のサラダをきちんと食べていて偉いと思った。
けど私は知っている。
本当は苦手なトマトを、頑張って食べていたことを。
あの子は、絵を描くのが上手だ。
六年生の時、賞状をもらってみんなに褒められていたけど、運が良かったなんて言っていた。
けど私は知っている。
一年生の時は絵が下手くそで、あの子が描いた犬の絵が、動物にすら見えなかったことを。
あの子は、笑顔が素敵だ。
愛想が良くて、みんなから好かれる、クラスの人気者。
けど私は知っている。
時々、誰もいないところで泣いていたことを。
あの子は、誰よりも心優しい人だ。
自分のことなど省みずに、頼まれれば誰にでも手を差し伸べる。
けど私は知っている。
あの子が心の底では怒っていることも、ずっと我慢してることも。
あの子は、私の親友だった。
ずっとそばにいて、私は彼女のことを誰よりも知っていた。
けど、私は知らないふりをした。
あの子の優しさに甘えて、縋って、でも私はあの子には何もしてあげられなかった。
私は、知らないふりをしているのが、楽だった。
私には、あの子のように何もかもを抱えることができなかった。
そして、あの子にはもう会えない。
遠い、遠いところへ行ってしまった。
「……ごめん」
もっと早くに伝えるべきだった言葉が、宙を漂う。
「知らないふりをして、見ないふりをして、ごめん…」
誰もいない隣にかけた言葉は、静寂に飲まれて消えていく。
その言葉はもう決して届くことはなかった。
3/30/2026, 1:22:23 PM