椎名めばえ

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#.hpmiプラス 🎲 お題:花束
「99本の薔薇」




私には付き合っている人がいる。名前を有栖川帝統という。彼はとんでもないギャンカスで、働きもせず彼の友人や私にお金を借りてまでギャンブルをするような人間だった。
そんな彼が唐突に「俺、働くわ」と言い出した時は、明日は嵐が来るかもと思ってしまった。そのくらい、働くという言葉が似合わない男なのだ。

彼のその言葉には嘘はないようで、朝は8時に家を出て、夜は10時に帰って来る。きっと死ぬ気で働いているのだろう。それなのに休みの日は賭場に行くのかと思えば、進んで家事をして、私に自由の時間を与えてくれた。
彼の変化に、私はどういう風の吹き回しか分からず困惑していた。

そんなある日、
「悪ぃ、明日から3日間出張に行くことになった」
と彼が言い出した。

「帝統、頑張りすぎてるんじゃない?休みの日だって家事やってくれるし」
「今まで散々遊び倒してお前に迷惑かけてきたからな、死ぬ気で働くくらいが丁度いいんだよ」
「そう…無理はしないでね。気を付けて行っておいで」

出張の前日、そういう会話をした。こうして当日彼を送り出すと、3日間の一人暮らしが始まった。


彼のいない家は静かで、寂しいものだ。寂しさを紛らわすためにテレビをつけてみたり音楽を流してみたりするのだが、矢張り1人の寂しさは拭えなかった。3日目、寂しさが爆発しそうになっていた頃、スマホが震えた。
画面に表示される“発信者:有栖川帝統”という文字。
ワンコールも終わらないうちに電話に出ていた。

「出るの早いな」
「お仕事お疲れ様。1人は寂しかったよ」
「悪かった。もうすぐ帰り着くから待っててくれ」
「うん、待ってる。気を付けて帰ってきてね」

お皿洗いや明日の準備をして彼の帰りを待っていた。
今か今かと待っていると呼鈴が鳴った。
こんな時間に訪問者が来るのは珍しいと思いながら出ると、そこにはスーツを着て大きな花束を抱える帝統が立っていた。

「おかえり…どうしたの、それ」
「ただいま。○○、今まで散々迷惑かけて悪かった。今までの分までいっぱい頑張るからその…俺と結婚してくれ」

そう言って帝統は頭を下げ、花束を私の前に差し出した。
彼とはもう7年の付き合いで、お互い20代半ばと結婚を考えても良い頃合だった。
なるほど、彼が最近仕事を頑張ってたのはこういうことかと納得した。

「嬉しい…こちらこそ、よろしくお願いします」
そう言って花束を受け取れば、帝統は顔いっぱいに笑顔をうかべ、私を抱き寄せた。


後から聞けば、この花束は99本の薔薇で作ってあるらしい。

99本の薔薇――永遠の愛。

ロマンチックとはかけ離れた彼が、こうして花束の意味まで考えてサプライズをしてくれた今日。私と彼が付き合って丁度5年の日のことだった。


2/9/2023, 3:54:16 PM