しぎい

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今までろくに鳴き声すら発さなかった俺の猫が、いきなり明確な意思を持った女の声で喋り始めた。

「身の回りの障害物を排除して排除して、その先に一体なにが見えましたか?」

猫の毛並みのいい頭を撫でていた俺は、完全にリラックスモードだった。つまり油断していた。

しばらくあぜんとしていたが、すぐにこれは夢と分かった。自分の息が上がっていたからだ。激しい呼吸と同時に、胸が上下していた。

寝間着代わりのTシャツがじっとり汗ばんでいる。身体を起こそうとするが、力が入らない。

猫の喉を介した女の言葉を思い出し、つい唇を噛む。

(見たじゃねえか。いや、見せてやった)

うっとうしい他人など蹴落としてきた。人の背中をさんざん踏みつけにしてきた。頂上からの眺めは最高だった。まさに極彩色の景色だった。

(お前だって汚いマネやってきたじゃねえか。何で俺だけ責められなくっちゃならないんだ、ええ)

俺は爪で皮膚が傷つくのも構わず髪の毛をぐしゃりと掴んだ。夢で聞いた抑揚のない女の声が、いつまでも頭の中にこびりついて離れない。

2/22/2025, 2:02:50 PM