彼は1000年先も見通す未来視の能力を持っている
彼の能力を欲しがるものは多い
そのため、彼の力を悪用されないように、時の権力者は彼に広い屋敷を与え、そこから出ないように命じた
彼の人としての尊厳を守りたいものたちは、一生を屋敷の中で過ごさせるつもりかと抗議の声を上げたが、決定が覆ることはなく、彼は残りの人生を屋敷で過ごし続けることになってしまう
ある者は嘆かわしいと怒り、ある者は哀れみ、ある者はしかたのないことだと諦めた
しかし彼自身はこの処遇について、どう思ったのか
一生屋敷の外へ出られぬことに絶望したのか?
否
己の自由を奪い去った権力者への憎しみをたぎらせたのか?
否
自らの力が不幸を招くならと、閉じ込められる運命を受け入れたのか?
否
歓喜
彼は、黙っていても食事が与えられ、必要なければ人とも話さなくてよい
そして、よほどのことでなければ、ある程度のワガママが許されるその環境に、抑えきれぬ喜びをあらわにしたのだ
なぜ彼は、ここまで喜んだのか?
高待遇であるのは確かだが、それだけで屋敷から一生出られないことを許容はできない
普通ならば
彼は普通ではなかった
彼の未来視は、1000年先をも見通せるのである
それこそが理由であった
いわく
「漫画やアニメという娯楽があまりにも面白くて、時間がいくらあっても足りないのだ」
彼は遥か未来の、漫画・アニメと呼ばれるものにハマった
それまでつまらない人生を送ってきたと自分を評価していた彼だが、未来視でたまたま発見したこれらに、心を奪われたのだ
これらの娯楽さえあれば、もう他に何もいらない
生きている以上、人は己の人生に責任を持ち、働かなければ生きられない
しかし、時の権力者は彼を絶対の安全と引き換えに閉じ込める決断をした
彼にとっては、自分のために権力者が楽園を作ってくれたような感覚だ
彼は楽しんだ
未来の娯楽をただひたすら楽しんだ
さらに幸いなことに、彼には他人と楽しさを共有するという欲求がなかった
自分が楽しめれば、他人との交流などどうでもいい
それが彼の楽しみ方である
歴史書によれば、彼は己の悲運を悲運とも思わず、能力を悪用されるくらいならば、人のため、自らを封じようと決意した高潔な人物として記されている
だが実のところ彼は、自分が一生楽しめる環境を手に入れて喜んでいただけであった
2/3/2026, 11:04:20 AM