「……ん! ……ちゃん!!」
ぼんやりと眠りの海から浮かび上がっていく。
瞳を開くと、涙が横に落ちて耳元を通り、シーツを濡らした。
視線を左右に揺らすと、愛しい彼が青ざめた顔で、私の顔を見下ろしていた。
ぱちぱちと、瞬きをすると涙が更に零れ落ちる。
「大丈夫!?」
手を彼に差し伸べながら、掠れた声で、彼の名前を呼んだ。
それに気がついた彼は、慌ててこの手を掴む。
「夢を……見ていました」
「どんな夢?」
彼は包み込むような程の優しい声で話してくれながら、手を伸ばして目の端に落ちていた涙を拭ってくれた。
「……忘れて……しまいました」
瞳を閉じると、彼の指に暖かい雫がこぼれ落ちる。
忘れたなんて、嘘。
それは思い出したくない、遠い日の記憶。
身体を起こすと、彼の温もりが欲しくて手を伸ばす。同時に、同じことを思ったのか、彼が強く抱き締めてくれた。
おわり
お題:遠い日の記憶
7/17/2024, 2:31:39 PM