夢の中に不意に響いたガチャリという音は、そのまま私を夢の世界から締め出した。夢の世界への扉に背を向け現へと歩き始めれば、段々とその足音が私のものではなく、廊下を猫のように歩いているのであろうあの人のものだと気づく。
足音が止む。同時にデジタル時計の無機質な光しかなかった部屋に、細く光が差し込む。
慎重にゆっくりと近づいてくる振動を感じながら、心の中でカウントダウンを始めた。
3、2、1。
「おかえり」
0を数えた丁度。寝返りを打って、堪えてた笑いを零しながら告げる。
「やっぱり起きてた。ただいま」
逆光の中にいるその人の顔を見ることはできないが、悔しさの滲んだ声は見えずともその表情を雄弁に伝えてくる。
「いつから?」
「玄関」
「静かに開けたのに」
再現する手は大げさなくらいゆっくり取っ手を回す動きをする。
「そうじゃなくて」
しばらく眺めてもドアを開け始めない手をとり、その手を軽く捻った。
「鍵かあ」
私の手を掛け布団の中に戻しながら、鍵の開け方についてああでもないこうでもないと唸っている。その様子が面白くて、折角戻してくれた手をぴくりと動かせば、まるで予想していたように布団を叩かれる。
「明日も早いんでしょ。寝なさい」
「はあい」
「朝は見送るから」
「おやすみ、また明日の夜に」
今度は頭をぺしりと叩かれる。それから数度撫でて手が離れると、そのまま気配が遠ざかる。小さな小さなおやすみを聞きながら、目を閉じた。
今度の休みは何をしよう。出掛けるのもいいが家でのんびりも捨てがたい。ここ最近は朝と夜の一瞬にしか会えなかった人との時間を埋められるのならなんでもいい。
夢の扉の取っ手をゆっくりと回しながら、私は明日の朝、如何に静かに鍵を開けるかについて考えていた。
5/17/2024, 1:38:44 PM