「私、先輩の事好きなんだ。内緒だよ?」
そう言って、いつもクールな彼女は、私に乙女の顔を見せた。
彼女の家は母子家庭で、母親は要介護者だ。彼女は所謂ヤングケアラーというやつで、高校に行き、部活動をし、終わったらすぐ帰る人間だった。
部活に入っているのは、内申が少しでも良くなるように、との事らしい。また、コロナ禍で、彼女が中学の時の部活はそんなに活動出来ていなかった。青春っぽい事をしたい、というのもあるのだと思う。
彼女は非力で、体力を付けたいという理由で今の部活に入った。先輩は1人を除いて全員女子。彼女が体力を付けようとしているのを知った異性の先輩は、「俺で良ければ」と協力してくれるようになった。
きっと、そこから好きになっていったのだろう。
私は彼女の幼馴染だ。だからずっと彼女を見てきているし、これからも1番傍で彼女の事を見ていたい。
だから、先輩にはこの座を譲りたくない。
私と彼女が幼馴染かつ信頼出来る仲間として過ごしているこの時が、永遠に止まってくれれば良いのに。
彼女は明日先輩に告白すると言う。私は只一言、「応援してる」とだけ言った。
今日だ。今日、彼女は先輩に告白する。
嫌とは言えない。けれど、嫉妬と憎悪で胸が張り裂けそうになる。
私が1番彼女を傍で見てきたのに、私が1番彼女の事を理解してきたのに、私が1番彼女に手を差し伸べてきたのに。
どうして、どうして、どうして。
「じゃあ、行ってくるね!」
恋する乙女の顔をした彼女を見た瞬間、ぷつりと何かが切れて。
私は__俺は、咄嗟に彼女の腕を掴んだ。
「__御免、行かないで」
時間よ止まれ。
9/19/2024, 4:38:49 PM