蝉の声に飽きたころ、
庭の倉庫で祖父の麦わら帽子を見つけた。
クタクタになって、ほつれていたけれど、
なぜか、また祖父に会えたような気がする。
祖父は朗らかな人であり、
詩を愛し、本を愛し、そして自然を愛していた。
いつ会っても本の匂いに包まれている人であり、
私が生まれた日には、私の名前を主題にした詩を
作ってくれた。
かなり昔には、猪を狩って、猪鍋を身内に披露し
「この産毛が美味しい」と語ったという。
祖父は私が幼い頃に亡くなった。
酒を交わして語り合いたいこともたくさんあるが、
今はただ、墓を経由して語りかけるのみである。
再び会うことができたとするならば、
「大きくなったね」と声をかけてくれるだろうか。
そう思いながら、祖父の麦わら帽子を
そっと持ち上げると、ちいさな蜘蛛が一匹
倉庫の奥へと逃げて行った。
私は麦わら帽子を少しだけ叩き、綺麗に置き直すと、
倉庫を閉じた。
まだまだ夏は続く。
8/11/2023, 2:12:30 PM