初音くろ

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今日のテーマ
《後悔》





あんなこと言わなきゃ良かった。
どうしてあんなこと言ってしまったんだろう。
ぐるぐる後悔が頭を巡るけど、一度口にしてしまった言葉は決してなくなることはない。
取り消したとしても、その事実が消えることはないのだ。

好きな相手とのことを冷やかされて、照れ隠しでつい言ってしまった。
「そんなことあるわけないだろ!」と。
言った瞬間、背後から息を飲む音が聞こえ――振り返るとそこには彼女の姿があったという次第である。

最近やっと打ち解けてきて、冗談を言い合ったり、可愛らしい笑顔を見せてくれるようになっていたというのに、あの一言でそれらが全て無に帰した。
いや、無どころか完全にマイナスに振り切れてしまったに違いない。
だって彼女はその直後から俺を避けるようになってしまったのだから。


「で、諦めるのか」
「……」
「ヘタレ」
「んなこと言ったって、あんなにあからさまに避けられたらどうしようもねえだろ」

唯一俺の恋心を知る友が呆れたようにため息を吐く。
心底呆れたような眼差しがグサグサ突き刺さって心に痛い。

「何とも思われてないなら、むしろ避けないだろ」
「え?」
「おまえの言葉で傷ついたからか、あるいは相思相愛かもって自惚れてたのが恥ずかしくなって、それで顔を合わせづらいって避けてるんじゃないのか」

それはさすがにポジティブが過ぎる発想な気がするが、言われてみれば説得力があるような気もしてくる。
単純馬鹿と笑われても、悪友のそんな慰めの言葉に縋りたくなるくらいには凹んでいて。
思わず縋るような目をしてしまっていたのだろう、顔を上げた俺を見て、やれやれとでも言いたげに笑う。

「そんな情けない顔してオレに愚痴言ってる暇があるなら、本人に誠心誠意謝って、誤解を解くついでに当たって砕けてこいよ」
「当たって砕ける……砕けたら、骨は拾ってくれ」
「砕けたら、な」

背中を押すという言葉の通りバンッと背中を叩かれて、俺はその痛みに喝を入れられた気分で彼女の元へ走った。
立ち止まったら、またヘタレな自分が顔を出しそうだし、逃げ道を探して再び余計なことを言いかねない。
どうせ後悔するなら、誤解されて避けられたまま悶々とするより、傷ついても思い切って当たって砕けた方がスッキリするかもしれない。
その時は、きっと背中を押した責任を取ってあいつをヤケ酒につきあってもらうことにしよう。


数時間後、俺はひどく後悔することになる。
それは危惧していた失恋の後悔ではなく、もっと早くに告白していれば良かったという、至極幸せな後悔だった。





5/15/2023, 12:47:20 PM