幼い頃、息を弾ませて他の誰でもない私の方へ駆けてくる幼馴染のことがとても好きだった。
一つ年下の彼はいつも「おねえちゃん、おねえちゃん」と呼んできれいな花や石、お気に入りのおもちゃなどをプレゼントしてくれた。丸くぷっくりとした頬を真っ赤にしてコロコロと転がるように駆けよってくる姿がとてもかわいらしい。
あれから数年、中学校の卒業式で彼から小さな青い花の花束をもらった。所々に同じ形の白い花も散りばめられていて流行り物に疎い彼なりにがんばって選んでくれたんだなとわかって嬉しかった。
「これね、幼馴染がくれたの。かわいいでしょ」
親友に花束をみせて自慢した。きっと、かわいいとか幼馴染にしてはセンスがいいねとか、そういう感想が返ってくるだろうと思っていた。
「幼馴染くんがかわいそうでしょ。家帰ったらその花のこと調べときな」
親友は心底呆れたような顔をしながら花の名前を教えてくれた。ついでに保存方法なんかも細かく伝授され、大切にしなさいと念を押された。
写真撮影やら挨拶やらを終えて帰路につく。幼馴染は先に帰されてしまったから久しぶりに一人だ。
花束を掲げて空を仰ぐ。よく晴れた空の青とふわふわとした雲のようだ。
――そういえば今日は昔のように真っ赤な顔をしてたな
幼馴染は何を想ってこの花を選んだんだろう。口下手なのは知っているけど、こんなにも遠回しな伝え方をするなんて思ってなかった。
本当はこの花も花言葉も知ってるよ。でもね、直接聞きたかったんだ。
「やっぱり、かわいそうなことしちゃったかな」
【題:勿忘草(わすれなぐさ)】
2/3/2024, 7:07:07 AM