ハイファイ

Open App

『フィルター』

今考えると、今日の様子はおかしかったのだ。

表情は暗くて視線は合わない。何を問いても「大丈夫」の一辺倒だが妙に落ち着きがない。
その他にも普段の様子とは違う点はあったのだろう。

先ほど殴られた右足は動くたびに痛みを増している。折れた骨を無理に動かしている痛みだ。

視線を相手に向ける。口元は小さく動き、途切れ途切れに「みんなそう言う」「私がやるの」とまとまりのない言葉が聞こえる。

ゆらりゆらりと相手が近づき、手に持たれた金属バットとの距離が縮められていく。
頭の中が恐怖で染まると同時に一抹の罪悪感が湧いた。
「辛かったのに気づけなくてごめんね、あんたの姉になれて楽しかったよ」

掲げられた金属バットが振り落とされた。

9/11/2025, 2:47:04 AM