神木 優

Open App

 タイムマシンと聞いて一番最初に思い浮かぶものはなんだろうか? 僕はとある青い色をしたネコ型ロボットを思い浮かべる。未来の子孫が現状を変えるために、主人公の元へやってきて、過去を改変しようとする物語。僕は好きだ。
「それじゃあ三十路手前の君は現状を変えるために小学生の自分に会いに行くのかい?」
 とあるカフェのテラス席。作家志望でフリーターを続けている僕は、営業で外回りをしていた友人とばったり出くわし、他愛もない会話に花を咲かせていた。彼はこのまま直帰で僕と話していても問題はないらしい。
「僕の場合だと、小学生の自分に会ったら、それこそ作家を志すと思うよ」
 僕はカフェオレを一口飲んだ。
「そんな体験をしてしまったら現実に戻ってくることはできないだろう。空想に空想を重ね、妄想を膨らまさせてしまうのが目に見えてしまうよ」
 それを聞いた友人はケラケラと笑っている。
「過去に戻っても現実は変わらないってか? そうかもしれねーな」
 そうは言ってないはずだが、そう聞こえたなら仕方がない。
「そういうお前はタイムマシンがあったらどうするんだよ?」
 投げやりに聞いてみたが、彼は空をちらっと見上げ、考える素振りをして答えた。
「多分……多分だけどな…………自分自身を殺すんじゃないかな? 堕落論の大磯のどこかで心中しようとした学生と娘じゃないけどさ、美しいものを美しいままで終わらせるんじゃないかなって思うのさ。俺の場合、その美しい時期ってのが小学生の頃ってだけでさ、今みたいに心のどこかに必ず不安を抱えて、それに怯えて生きる苦しさを知らないうちに、誰でもいいから殺してくれないかなって思うのよ。俺には自殺する勇気はない」
 そこで彼は真っ黒なコーヒーを一口飲んで続けた。
「でもさ、過去に戻って自動車の一つでも奪い取ってアクセルを全開に踏み込んで小学生に突っ込むことは出来ると思うぜ? だって、過去の俺を殺したら俺も消えてなくなって、罪に問われることはないんだからさ」

7/22/2024, 11:03:06 AM