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笑顔の値段(テーマ スマイル)

(疲れた。)
 自宅にたどり着いたのは、0時過ぎ。すでに翌日が始まっている。
 
 別に飲み会があったわけではない。
 仕事が終わらなかったのだ。
(夕方に今日中期限の仕事を持ってくるなよな。)

 家族サービスが、とか言いながら仕事を押し付けて帰っていった課長を思い出して、気分が悪くなるため切り替える。
(独身者へのあてつけか、それは。)
 一応、自分にも自宅には一人同居人がいるのだ。
 
 夜が遅いのに、ドアの開く音を聞いて猫が寄ってきた。
「ただいま」
 同居人は人間ではなく、飼い猫だ。


(猫だけが癒やしだ。)

 冷蔵庫からビールを出して、買ってきた弁当を電子レンジで加熱して、テレビをつけて、食べる。

 翌日も仕事だから、あまりゆっくりもしていられない。
 
 かまってほしいのか、足を引っ掻いてくる猫をたまに撫でながら、ビールを流し込む。
 
 夜食代わりに餌を猫に出してみると、バリバリと食べ始めた。
 
 夜まで仕事漬けの生活が続いているため、自動餌やり機を導入したが、足りなかったのだろうか。
 
「お前も一日中部屋の中は辛いよな。」

 遅くなる日が続いている。
 帰ってきても猫は寝ていることも多く、こうしてコミュニケーションを取るのも久しぶりだった。
 
 とはいえ、キャットタワーとか入れて自分が仕事漬けなので、もはや「ペットがいる自分の家に帰っている」のか、「ペットが住んでいる家に毎晩泊まらせてもらっている」のか、わからなくなる時がある。
 
 猫に声が出せれば、もしかすると
「お客さん、最近ご無沙汰だったじゃん。」
 とか言われたかもしれない。
 

「そういえば、昔、スマイル0円とかやってたな」
 猫を膝の上の乗せ、猫の口の口角を上げ、無理やり笑顔にしてみる。

 突然の暴挙に、フギャーと声を上げて猫は去っていった。

 猫にスマイルはないか。
 
 そういえば、自分もあまり笑っていないな、と口角を上げてみる。
 
 鏡を見ていないが、絶対に笑顔じゃない。これは。
 
 目が笑っていないし。
 
 こういうとき、独身でいいのかと考えるが、同時に、独身でよかったとも思う。
 誰にも心配も迷惑もかけないから。

 帰ってくるのが遅いと文句を言われることもない。・・・猫以外は。

 だが、「だからといって、こういう日が続くのがいいのか」と考えることはある。
 
 「生きるために仕事をしている」ではなく「仕事するために生きている」状態。

(こんな状態で、笑顔なんて無理。)

 昔、スマイル0円をしていた店員は、忙しい中で笑顔も作らなくてはいけない、ひょっとしたらものすごく辛いことをしていたのではないか、と埒もない事を考えた。

(せめてテレビ見て笑えるくらいの余裕はほしいね。)

 明日は、夕方に仕事振られそうになったらトイレに行ってみるか。と、これまた埒もないことを考えた。

 明日も仕事だ。

2/8/2024, 10:22:20 PM