作品8 たくさんの想い出
楽しかった思い出なんて、一つもない。死ぬ間際になるまで、ずっとそう思っていた。
僕は小さい頃から体が弱くて、成人してから一瞬良くなったけど、またすぐ悪くなった。それでもやっぱり長生きしたかったし、健康でいたかった。
そのために、出来る限りのことはした。食べるものも、触るものも、部屋の空気も、何もかも、嘘臭いものでも、全部試して、健康に良いものにしていた。
だけど、無駄だった。
そんな無駄の一つに、散歩があった。
あれは、秋風が強い日。いつもみたいに散歩をしていた。なんとなく、いつもと違う道を歩こうと思い、見知らぬ公園に行った。そこには、大きな木と、たくさんの落ち葉があった。あと何回見れるかわからないから、ちゃんと記憶に残そうと、目に焼き付けているとき。
あの人に出会った。
あの人は、凛としていてすごく美しかった。
僕と初めてあったときの印象を聞くと、『秋風』と答えられたのは、すごい面白かったな。お返しに、想いも込めて『リンドウ』と言ったっけ。
あの人のおかげで僕の記憶は、一気に鮮やかに色づいていった。
ありがとう、人生に色を与えてくれて。
ごめんね、イチョウの約束守れなくて。
僕のことを教えなかったのは、呪いになりたくなかったんだ。
死ぬ間際になって、あの人に送る手紙を書いていると、そんな思いがたくさん溢れてきた。こんなの、だめだ。こんなの、余計あの人を苦しませるだけだ。
もっと別な言い方で、もっと遠回しに、直接この気持ちを伝えたい。
あの人は僕にたくさんの想い出をくれた。走馬灯が豪華になるほど色鮮やかで、それでいて、両手から溢れてしまうほどの、たくさんの想い出を。僕の一生の中で、一番濃厚な時間だった。
ありがとうね。全部を伝えるには言葉だけじゃ足りないから、紙にも工夫した。きっと気づいてくれるはず。
『いつまでも、君を想うよ。』
そう手紙に綴った。
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作品4 秋風より
「あなた」(「彼」)目線
11/18/2024, 10:40:44 AM