「ずうっと同じ景色だねえ」
「ほんとだね」
「真っ暗」
「うん、真っ暗だ」
「ずうっと続くんだね、これ。目的地に着くまで」
「そうだね」
「飽きるね」
「しようがないよ。景色は変えられないもん」
「片道、何カ月かかるんだっけ。2週間?」
「2週間と3日、かな」
「長い新婚旅行だねえ」
「……後悔してる? 僕と結婚したこと」
「なんで? するわけないでしょ」
「でもさっきから飽きるとか、長いとか」
「そりゃ長いよ。だって2週間と3日だよ? 月まで到着するの」
「地球に居たかった? あのままずっと」
「居られないじゃん。人口爆発で食べ物作る農耕地が足りなくなったんだから。月のコロニーに行くしかないんだよ。政府の言うとおり」
「ーー僕にもっとお金があれば、残れた。土地、持てなかったから。地価が高騰した地球に。だから」
「ねえ、辛気臭い話は止めよ? あたしたち新婚旅行なんだよ? たとえ窓から見える景色が真っ暗で果てしない漆黒の世界でも、死ぬほど退屈でも、あたしはあなたと一緒ならそれで幸せなんだから」
「……僕だって、君となら、月のコロニーだってパラダイスさ」
「……ふふ、キザなセリフ、似合わなーい」
「いいじゃん、言ってみたかっただけだよ」
「照れ隠しめ。……あーあ、それにしてもずうっと同じ景色だねえ」
「ほんとだね」
地球発の宇宙船。3等客室の船窓にて。
#窓から見える景色
9/25/2024, 11:28:22 AM