川柳えむ

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 知らない番号からスマホに電話が掛かってきた。
 普段なら出ないところだが、操作を誤って電話に出てしまった。
「……もしもし?」
 スマホの向こうから叫び声が聞こえた。
「え? ど、どうしたんですか!?」
 何か事件でも起きたのか? 慌てて尋ねると、
『そ、そなた様は、その板の中に閉じ込められておられるのですか?』
 予想外の返答が返ってきた。

 話してみると、どうやら、電話の先は遠い遠い過去の時代のようだ。なぜか板――スマホが落ちていて、触れたら俺の声がしたという。
 ――そんな馬鹿なことあるか? 俺が騙されている可能性の方が遥かに高い。
 でも、相手の話を聞くのがなんだか楽しくて、思わずしばらく話し込んでしまった。
 そして、気付けばスマホの充電が残り少なくなっていた。充電しないと――。
 そう考えて気付いた。相手のスマホの充電はどうなっている?
「画面の右上の数字はいくつになってる?」
『――……?』
 わからないか。まぁ仕方ない。
 でも、結構長時間話し込んでしまっているから、もう充電があまり残っていない可能性の方が高い。
 電話の先は遠い過去の時代。たぶん、充電できる環境でもないだろう。
 話を終わらせたくない……。でも、その時は近付いている。
「あの……俺、いつか会いに行くよ。きっと、会いに行く方法を見つけてみせる」
 スマホが過去にタイムスリップしているんだ。タイムマシーンだって、きっと作ることができるはずだ。
「だから、それまで待っていてくれないか?」
『……はい。ここにて、ずっとお待ちしております』
 その返事と同時に、電話は切れた。スマホの充電が落ちたのだ。
 充電して折り返してみたが、もう二度と繫がることはなかった。

 でも、俺は諦めない。
 スマホの電源が点くように、俺の心に光が灯り、電話が鳴るように、心臓が高鳴った。
 どんなに離れていても、いつか君のもとへ辿り着いてみせるから。


『どんなに離れていても』

4/27/2025, 6:49:19 AM