ロウソクの炎が揺れている。
暗闇の中、音も無く、静かに。
炎の周りだけが、ボォと明るくなり、そこに、男の顔が浮かんでいた。
「この場所で、私が体験した話なんですが」
そこは廃病院。男はYouTuberだ。
心霊スポットでの怪談話。
「ここは、地下の遺体安置所です。見ての通り、もう何年も使われていない。それでもね、当時の匂いがまだ残ってるんですよ」
たった一人での生配信。
今までにもたくさんの場所で行ってきたが、ここは格別だった。
絶対に何かいる。
「以前、ここに突撃したことがあるんですよ。その時は、友達と一緒でした。この部屋に定点カメラを仕掛けてね、何か撮れるかと期待したのですが…」
映像には何も映せなかった。
延々と、荒廃した部屋の映像が続き、最後に、カメラを回収に来た友達の姿が映って、終わり。
「おかしいのはね、私がまるで映ってないんですよ。その部屋の真ん中に、椅子を置いて座っていたはずの私の姿が。誰も座っていない椅子だけがポツンと置かれていました。映像の間中ずっと」
この部屋には何かがいる。
あの時、友達もそう言っていた。
だが、映像には何も収められなかった。
「明らかに異常事態ですが、ここにいた私の姿が映ってないと主張しても、その証明が出来ない。結局、動画はボツになりました。それ以外には何も起こっていない、ただの定点映像ですからね」
そして、その後、友達は失踪した。
あれから、彼の姿を見ていない。
心のどこかで、「もしかしてこの廃病院に?」と考えていたことも事実だ。
「そして今、このロウソクの灯りの向こうに、彼の姿を認めました。います。暗闇に薄ぼんやりと、ですが、部屋の隅に佇んでいます」
カメラをそちらに向けるが、何も映らない。
そもそも、ロウソクの灯りが、部屋の隅まで届いていない。
「私はね、この映像が皆さんに届くことを願います。彼が私達に残したメッセージ。この部屋には何かがいる、と。…もしくは、最初から何もいなかったのかもしれない」
ふっと、ロウソクの炎が消えた。
まるで、誕生日に吹き消されたキャンドルのように。
辺りは暗闇に包まれる。
静粛。
この部屋にはもう、誰もいない。
いや、最初から何もいなかったのかもしれない。
きっと彼の映像には、最初から誰も何も、映ってはいないだろう。
11/19/2024, 1:12:54 PM