何の変哲もない鉄製の重たいドアが、まるで宝物庫の扉のように思える。ゆっくりとドアを開ければ、寂しくてすすり泣いていた彼女の小さな泣き声が聞こえてきた。
そっと奥のドアを開けると、真っ白い腕をぎゅっと身体に近付けてすんすんと鼻を鳴らす彼女の大きな瞳が僕を捉える。
あ、と小さく声を上げた彼女は、やっと僕が帰ってきた安心感からかさらに大きく泣き始めた。
あぁ、そんなに泣いたら目が溶けてしまいそうだな、なんて思いながら彼女を抱き上げてリビングに向かう。
腕の中でこちらを見つめる彼女が愛おしくて、思わず笑みが溢れた。
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何の変哲もない鉄製の重たいドアが、まるで監獄の扉のようだと思った。
どんなに頑張っても、筋肉が落ちきってしまった私の力では開けることすらままならない。まぁそもそも、もう逃げる足が無いのだからどうしようも無いのだけれど。
ガチャン、と音を立てて鍵を開ける音がする。あぁ、帰ってきてしまった…恐ろしさに自然と息が上がり、ボロボロと涙が溢れてくる。
真っ暗な部屋に淡い光が差して、彼がやってくる。
伸ばされた腕が恐ろしくて声が漏れた私を嘲笑うように、その腕でぐっと引き寄せられて身が強ばった。
彼に抱えられて、恐らくリビングに向かうであろう事を察してふと彼を見ると、ニコリと感情の読めない顔で微笑まれる。
あぁ、今日は何を失うのだろうか。
10/31/2024, 6:20:58 PM