「こんな家に誰が帰ってくるか!」
荒れていた中学生の弟と育ての父が目の前で喧嘩をしている。それだけで済むならまだしも、気の弱い父は物を直ぐに投げた。
この間は、大きな陶器の花瓶……
この間は、傘……
その父を必死に止めようとする母を見る度に、いつか誰かが死ぬと心の中で思っていた。
家の中はぐちゃぐちゃ、後片付けをしながら絶対にこの家を出てやると思っても、母の顔を見ると出来なかった。弟だって、可愛い時もあったんだ……なんで、こんなことになっちゃったんだろう。
そんなある日家に帰ると、子猫が家にいた。茶色と黒とオレンジのまだら模様の、丸々とした子猫が、ミャーと鳴きながら私に擦り寄ってくる。
「ダンボールの中にいたから、連れて帰ってきた。ねぇちゃん、面倒みれる?」
荒れていた弟が見せた優しさだった。
この子は、心の底から悪い子になったんじゃない。
「連れて帰ってきたら、捨てられないでしょ……」
「ありがとう……てか、ごめん」
私は、泣き笑いで子猫を抱きしめた。
そこから、弟は家を出たまま帰って来なくなった。
いま、どうしているのか、ちゃんと人間らしく生きているのか、悪いことしていないか……そんなことを毎日思いながら、祈らずにはいられない。
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【お題】忘れたくても忘れられない
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10/17/2022, 3:37:27 PM